
医療機器の修理業とは、市場に出た医療機器の修理・点検を行う事業のことで、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)に基づく許可制です。修理を行う機器の種類に応じて第1〜第9の「修理区分」に分かれており、扱う区分ごとに許可を取得する必要があります。
医療機器は、修理の質が製品の安全性に直結します。誤った修理や不十分な点検は、機器の誤作動や患者への健康被害につながりかねません。そのため、修理業には製造販売業や製造業と同様に、行政による許可制度が設けられています。
筆者自身、薬機法上の法定責任者である修理業責任技術者として医療機器の修理業務に携わり、修理業許可の新規取得、修理手順書の作成、許可取得時の実地審査への対応、そして取得後の運用統括までを一通り経験してきました。本記事は、その実務経験にもとづいて執筆しています。
この記事では、修理業許可を検討している事業者の方に向けて、修理業の位置づけから、必要な体制、許可取得までの流れ、実務でつまずきやすいポイントまでを整理します。
1. 修理業とはどのような事業か
医療機器ビジネスに関わる事業者は、大きく4つの「業態」に分類されます。
・製造業:設計・主たる組立てなど特定の製造工程を担う事業者 ・製造販売業:医療機器を国内市場に出荷する「元売り」。市場に対する最終責任を負う ・販売・貸与業:製造販売業から供給された医療機器を医療機関等のエンドユーザーへ届ける事業者 ・修理業:市場に出た医療機器の修理・点検を行う事業者
この4つの中で修理業は、いったん市場に出た製品の「その後」を支える役割を担います。使用中の医療機器に不具合が生じた際、安全に元の性能へ戻す作業を行うため、製造や販売とは異なる専門性と責任が求められます。
なお、修理区分は医療機器の種類ごとに定められているため、自社が扱う機器のクラス分類を特定することが出発点になります。
2. なぜ修理業に許可が必要なのか
医療機器は、絆創膏のようにリスクの低いものから、生命維持装置のようにリスクの高いものまで幅広く存在します。修理という行為は、いったん完成した製品の性能・安全性に直接手を加える作業であるため、誤った修理が行われると、製造段階以上に重大な事故につながる可能性があります。
そのため薬機法では、修理業を「誰でも自由に行ってよい業務」ではなく、一定の設備・技術者・管理体制を備えた事業者のみが行政の許可を得て行える業務として位置づけています。これは、修理後の製品が市場に出回っても、製造販売業者が定めた性能・安全基準を満たし続けられるようにするための仕組みです。
3. 修理区分(第1〜第9区分)の考え方
修理業許可は、機器全体に対して一律に与えられるものではなく、修理する機器の種類・構造に応じて第1〜第9区分に分かれています。自社が実際に修理を請け負う機器がどの区分に該当するかを見極め、必要な区分のみを取得するのが基本です。
複数の種類の医療機器を修理する事業者は、複数区分を同時に取得することも可能です。今後扱う機器の種類が増える見込みがある場合は、将来的な区分追加も見据えて計画しておくと、後々の手続きがスムーズになります。*区分の詳細な分類基準は、厚生労働省・PMDAの最新の公表資料でご確認ください。
もう一点、間違えやすい点があります。9つの区分は、特定保守管理医療機器と、それ以外の医療機器とで別々に設定されています。特定保守管理医療機器の第1区分の許可を持っていても、それ以外の第1区分の機器を修理するには、別途その区分の許可が必要です。
自社が扱う機器について、どの区分に該当するかと、特定保守管理医療機器に指定されているかの2点を、一般的名称のレベルで確認しておいてください。
詳しくは「医療機器 修理業責任技術者とは|資格要件と修理区分」で、第1〜第9区分の一覧と特定保守管理医療機器との関係を整理しています。
4. 修理業に必要な体制(許可要件)
修理業許可を取得するには、以下の体制を整備する必要があります。
- 修理区分ごとの設備・工具:修理する機器の点検・修理に必要な設備を、区分に応じて備えること。
- 責任技術者の配置:修理業務を実地に管理できる責任技術者を事業所に配置すること。
資格要件(実務経験年数・基礎講習・専門講習)は「医療機器 修理業責任技術者とは|資格要件と修理区分」で解説しています。 - 修理手順書の整備:修理の手順を明文化した文書を整備すること。
- 点検・試験の体制:修理後に性能・安全性を確認する体制を整えること。
- 修理記録の作成・保存:修理内容・点検結果を記録し、一定期間保存すること。
- 不具合発生時の報告体制:修理した機器に不具合が見つかった場合の報告ルートを整備すること。
- 製造販売業との情報連携:修理内容や不具合情報を、当該製品の製造販売業者と共有できる体制を整えること。
これらは許可取得時点で一度整えれば終わりではなく、修理業務を行う限り継続的に維持・運用する体制です。
5. 修理業の実務ポイント
許可取得後、実務上とくに重要になるのは次の点です。
- 修理区分の選定:自社が扱う機器の種類を洗い出し、必要な区分を過不足なく選ぶ
- 修理手順書の整備:機器ごとに具体的な手順を文書化し、現場の担当者が迷わず作業できる状態にする。
- 点検・試験の実施:修理のたびに定められた点検・試験を確実に行う ・修理記録の作成・保存:後から追跡できる形で記録を残す。
- 不具合・苦情の情報連携:修理した製品に関する不具合や苦情を、製造販売業者へ遅滞なく共有する。
- 部品の管理:純正部品と互換品の扱いのルールを明確にしておく。
- 製造販売業からの依頼対応:製造販売業者からの修理委託にどう対応するか、事前に取り決めておく。
6. 修理業でつまずきやすいポイント
修理業許可の取得・運用でよく見られるつまずきには、次のようなものがあります。
- 修理区分の見誤り:自社が実際に扱う機器の範囲と、取得した区分が一致しておらず、後から区分の追加申請が必要になるケース
- 責任技術者の確保の遅れ:許可要件を満たす責任技術者の採用・配置に時間がかかり、事業開始が想定より遅れるケース
- 製造販売業との連携体制の未整備:修理は完了しているが、その情報を製造販売業者に共有する体制がなく、不具合報告の流れが滞ってしまうケース
- いずれも、許可申請の準備段階で自社が扱う機器の範囲と体制を具体的に洗い出しておくことで避けやすくなります。
7. 修理業許可取得までの流れ
一般的な流れは以下のとおりです。*自治体により手続きの詳細は異なるため、申請先の都道府県窓口への事前確認をおすすめします。
- 自社が扱う機器の種類を洗い出し、必要な修理区分を特定する
- 修理区分に応じた設備・工具を整備する
- 責任技術者を確保する
- 修理手順書・記録様式など必要な文書を整備する
- 申請書類を作成し、都道府県窓口へ申請する
- 実地調査を経て許可を取得する
8. よくある質問(FAQ)
Q. 修理業許可は製造販売業許可と両方必要ですか? A. 役割が異なるため、修理のみを行う場合は修理業許可のみで足ります。ただし、修理後の製品を自社で市場に出す(元売りする)場合は、製造販売業許可も別途必要です。
Q. 修理区分はいくつ取得すればよいですか? A. 自社が取り扱う(修理する)医療機器の種類に応じて必要な区分のみを取得します。複数の種類の機器を扱う場合は、複数区分の同時取得も可能です。
Q. 責任技術者は自社の従業員でなければなりませんか? A. 原則として事業所に常駐し、修理業務を実地に管理できる立場であることが求められます。具体的な資格要件は区分により異なるため、申請先の都道府県窓口でのご確認をおすすめします。
Q. 修理業許可の取得にはどのくらいの期間がかかりますか? A. 申請先の都道府県・区分により異なりますが、設備・体制の整備期間を含めると数か月単位で見込むのが一般的です。
Q. 修理業と製造業の違いは何ですか? A. 製造業は製品を新たに作る工程(設計・主たる組立てなど)を担う事業者、修理業は市場に出た後の製品を修理・点検する事業者です。行為の対象となる製品の段階が異なります。